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【対談】マイクロバイオファクトリー株式会社 代表取締役 清水雅士様

令和3年5月2日

私たちiGEM Qdaiをスポンサーとして応援してくださっているマイクロバイオファクトリー株式会社の代表取締役・清水雅士様と対談をさせていただきました。iGEM Qdaiからは、本屋敷・水流添・鶴巻・森山の4名が参加しました

デバイスを社会へ適応させるには?


Qdaiメンバー)iGEMQdaiでは、現在、一酸化炭素検知デバイスの作成に取り組んでいます。最終的には、人に一酸化炭素の危険を知らせるようなものにしたいですが、まずは人命に関わらない用途で名を売っていくことが大事だと考えています。現在、タバコの煙を検知して換気のタイミングを知らせる用途や家畜の飼料から出るガスを感知する用途を考えているのですが、これは有効でしょうか。

清水様)喫煙室は自動で換気されるので、たばこの煙の検知はそこまで必要性は感じられません。また危険を知らせるのに光だけでは足りないので、音なども使う必要があると思います。家畜飼料へのデバイスの適応は面白いのではないでしょうか。また、他のガスの検知をしてみてもいいかもしれません。例えば、アルコールを検知することができたら、警察の飲酒検問に使えるのではないでしょうか。合成生物学を利用する必要があるセンサーなど、既存のセンサーと差別化することが重要だと思います。

超高性能接着剤、環境にやさしいジーンズ...

マイクロバイオファクトリーのここがすごい!


Qdaiメンバー)次に、マイクロバイオファクトリー株式会社様がどのような事業しているのか教えてください。

清水様)私たちは、芳香族化合物を生産する微生物を開発しています。また、市場調査を重ねた末、当社は芳香族化合物の中でも「ヒドロキシチロソール」と「インジゴ」の事業化に取り組んでいます。

まず、ヒドロキシチロソールですが、これはオリーブに含まれる抗酸化・抗菌成分です。また接着機能有するカテコール基を保有していて、化粧品・健康食品、接着剤の原料などの用途を考えています。2020年に純度98%以上のヒドロキシチロソールサンプルの生産に成功し特許を出願しました。また、国立研究研究機関との共同研究で、ヒドロキシチロソールの接着剤としての有効性に関するPOCを取得しました。

現在は、スケールアップ試験や接着剤の試作・ 評価 、化粧品向けの評価などを行っていて、将来的には、大きなプラントを建設して、商用化を目指しています。ヒドロキシチロソールに含まれるカテコール基は、ムラサキイガイなどの ムール貝が岩面にくっつく時の接着物質に含まれる成分が持つ官能基と同じものです。同成分は、① 水中での接着が可能、  ②異種材料(金属と樹脂など)の接着が可能、  ③強い接着が可能、といった特徴があります。ですので、医療分野や自動車分野、航空機分野での活用が期待されます。

次に、インジゴですが、化学合成インジゴの課題 として、インジゴ原料であるアニリンには発がん性を有すること、水生生物に対して毒性があることが挙げられます。特に、アパレル業界は環境への配慮 を重視しており、アニリンの残存量が規制されています。バイオインジゴの場合、ア ニリンを原料にしないことからアニリンフリーなインジゴです。また、再生可能なバイオマス資源から製造が可能なので、環境に優しいです。このような特徴・コンセプトは、大手ジーンズメーカーや国内有数の染色企業から高評価 を頂いています。2020年にバイオインジゴの生産とバイオインジゴ染ジーンズの試作に成功しました。次は量産化と試験販売、そしてプラントの建設を目指します。

 

将来 、コンピューター技術とバイオテクノロジーが融合する第5次産業革命が来ると考えています。当社はその合成バイオIndustry5.0時代のリーディングカンパニーを目指します。

Qdaiメンバー)マイクロバイオファクトリー様の事業を知り、私たちのこれからの課題を考えさせられました。これから先に想定 されるであろう金属の価格高騰を考えると、大腸菌を用いることによる将来的な 安定した価格 、といった需要を考えることは出来るかと思います。しかし、今すぐに利 益を上げられるモデルを作れるのか、なども考慮することが必要だと思いました。

清水様)

私たちは、生産したインジゴを染料に、ジーンズを作って販売することと、原材料としてそのまま販売するところで利益を考えています。そのような今求められる何かを考えるのは大事だと思います。

 

バイオインジゴ生産の様子

バイオインジゴ染ジーンズ


日本における合成生物学~なぜ認知されないのか~


Qdaiメンバー)

マイクロバイオファクトリー株式会社様は合成生物学を扱っていらっしゃると思います。また、これから合成バイオの時代が来るといったお話もありました。しかし、日本では合成生物学はまだあまり認知されていないように感じます。それはどうしてなのでしょう。

清水様)

合成生物学というものの分かりづらさが原因ではないかと考えます。理系の方ならともかく、文系の方で生物をほとんど習わなかったという方には、合成生物学を説明するのに「DNAとは何か」といった話からしなければなりません。また、日本は特に遺伝子組換えに対する懸念が欧米諸国に比べて高く、それも原因になっていると思います。ですので、合成生物学を日本で広めるためには、「分かりやすく伝える」ことが必要だと思います。

Qdaiメンバー)

ありがとうございます。これまでごく当たり前に行われてきた育種も遺伝子組換えの一つである、といったことを「分かりやすく」伝えていかなければならないのですね。

日本ではあまり認知されていない合成生物学ですが、現在のコロナ流行により、新たな意義が見いだされるのではないかと考えています。清水様は合成生物学に見いだされる新たな意義について、どのようにお考えでしょうか。

清水様)

コロナとは少し外れてしまいますが、環境問題に対して合成生物学的なアプローチをすることは有効だと思います。例えば、アメリカではマラリアを媒介する蚊を遺伝子組換えして放出することで、マラリアを根絶しようという活動があります。

他にもこんなことをお話しさせていただきました!!!


Qdaiメンバー)

現在、博士課程に進学する学生が減少するなど、日本の研究者事情が厳しいものになっていると思います。このことについて、清水様はどのようにお考えでしょうか。また、私たちは博士課程を目指してよいのでしょうか

清水様)

やはり、企業の博士課程修了者に対する待遇を改善しなければならないと思います。博士課程については、続けたい研究があれば進学するという認識でいいと思います。

オンライン対談の様子